二次試験(論文/選択科目)の対策!
特許庁のWebサイトで公開されている過去問の中から、理工IV(生物)の「生物化学」を解いてみました。
今回は、2020年度(令和2年)の問題です。
ボクなりの回答と、ボクが考えた派生問題を共有させていただきます。
おかしな箇所があれば、Comment欄にてご指摘ください。
2020年度の過去問
問1(計25点)
以下の事項について、空欄の( ① )から( ⑩ )に適切な語を入れよ。ただし、同じ番号には同じ語が入る。
遺伝情報が書き込まれた DNA は、( ① )と呼ばれるタンパク質の( ② )量体に巻きつくことでヌクレオソームと呼ばれる構造をとる。このヌクレオソームを最小単位とした DNA とタンパク質の複合体のことを( ③ )と呼ぶ。( ③ )構造は遺伝子の転写に重要な役割をもっており、( ③ )が凝集した DNA 領域では転写が( ④ )されている。
① ヒストン
② 8
③ クロマチン
④ 抑制
ヒストンに巻き付いたDNAが「ヌクレオソーム」で、その集合体が「クロマチン」。
モヤモヤっとしてしまった方は、AZARASHIさんのウェブサイトで勉強しましょう!
( ⑤ )は、特異的な DNA 配列を認識して結合し、転写を調節するタンパク質である。( ⑤ )が結合する DNA 配列を調べる試験管内の実験として( ⑥ )法が挙げられる。この実験では、特定の配列を含む合成した DNA を( ⑦ )でラベルし、そこに( ⑤ )を混ぜて、ポリアクリルアミドゲルなどで電気泳動する。( ⑤ )が DNA と結合すると、DNA の移動度が( ⑧ )なる。
⑤ 転写基本因子
⑥ ゲルシフト
⑦ 放射性同位体
⑧ 遅く
⑤は「基本転写因子」と習ったように記憶していたんだけど…「The Cell」や「Essential 細胞生物学」で調べると正しくは「転写基本因子」???間違って覚えてたかな??
一方、細胞内で特定の( ⑤ )が結合する DNA 領域を同定する方法もある。例えば、抗体を用いた( ⑨ )法により標的の( ⑤ )を含む( ③ )複合体を単離する。
その後、( ⑩ )法により特定の DNA 配列を増幅することで標的の( ⑤ )が結合する DNA 領域を同定する。
⑨ クロマチン免疫沈降
⑩ PCR
「in vivo(細胞内)で」特定の転写基本因子が結合するDNA領域を同定する方法といえば、クロマチン免疫沈降法。
問2(計15点)
2 蛍光タンパク質を発現させた細胞を蛍光顕微鏡にてライブイメージング観察する際に気を付けることを、以下の語を全て用いて3行程度で説明せよ。また、用いた語には下線を引け。
[励起光、褪色、細胞毒性、露光時間]
蛍光タンパクを発現させた細胞に励起光を照射すると細胞毒性が生じ蛍光褪色してしまうことが知られている。励起光の露光時間が長いほどより大きな細胞毒性が生じるため、撮影時間以外は励起光を切るなど、できる限り露光時間が短くなるように気を付ける必要がある。
励起光を当てると直ぐに褪色しちゃうから、チャンスは一度限り。
問3(計15点)
3 体細胞をリプログラミングする方法を二通り、以下の語を全て用いて合わせて3行程度で説明せよ。また、用いた語には下線を引け。
[受精卵、体細胞核、ウイルスベクター、初期化因子]
従来、受精卵から個体が形成されていく過程は一方向性であり、一度分化した細胞は元の未分化細胞に戻れないと考えられていたが、分化した体細胞核を卵子の細胞質に移植すると受精卵の状態に戻ることが知られている。最近では、ウイルスベクターによって初期化因子を体細胞へ導入すると多能性を持つ細胞が誘導されることが発見された。
「分化した細胞核を卵子の細胞質に移植=ES細胞」、「ウイルスベクターによって初期化因子を体細胞へ導入=iPS細胞」。この技術を応用した再生医療の実用化が間もなく!?
問4(計15点)
がん免疫療法に用いられるメカニズムを、以下の語を全て用いて3行程度で説明せよ。
また、用いた語には下線を引け。
[PD1、PD-L1、T 細胞、がん細胞]
がん免疫療法とは免疫機能を利用してがん細胞を攻撃する治療法である。最近の研究では、がん細胞が免疫の働きにブレーキをかけていることがわかり、そのブレーキを解除する方法として、免疫チェックポイント阻害療法が注目されている。免疫チェックポイント阻害剤の一つニボルマブは、がん細胞のPD-L1とT細胞のPD1との結合を阻害する。
免疫チェックポイント阻害因子の発見により、京都大学の本庶佑先生が、2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞!
この発見により、オプチーボを始めとする免疫チェックポイント阻害剤が誕生し、がん治療が飛躍的に進歩しました。
問5(計30点)
5 神経系に存在する以下の構造体について、構造的特徴と一般的な役割をそれぞれ1~2行程度で説明せよ。
(1) 軸索
軸索とは、神経細胞の細胞体から伸びた突起状の構造で、神経細胞における信号の出力を担う。神経細胞につき通常1本存在し、その神経細胞から伸びる最も長い突起であることが多い。
神経細胞の細胞体から伸びる突起構造には、一本の軸索と複数本の樹状突起があって、軸索は出力、樹状突起は入力の役割りを担っている。
(2) 髄鞘
髄鞘とは、神経細胞の軸索の周りに存在する絶縁性の脂質の層を指す。絶縁性により神経パルスの伝導を高速にする機能がある。
神経パルスは髄鞘の間隙をぴょんぴょん飛び跳ねながら伝わっていくため、「跳躍伝導」という。
(3) シナプス
シナプスとは、神経細胞間あるいは神経細胞と他種細胞間に形成され、神経情報の伝達を担う。最も基本的な構造はシナプス前細胞の軸索末端がシナプス後細胞の樹状突起に接触しているものである。
シナプス前細胞のことを「プレシナプス」、シナプス後細胞のことを「ポストシナプス」ともいう。
問題を解き終えた感想
【2020年度の特徴】
- 全体を通して「医学系」、、、特に「臨床よりの医学系」に関する問題が多い印象
- 日本人のノーベル賞に関する問題が2問(合計で30点!)
- 生化学の問題が少なかった
問題の傾向として、「分子生物学(2017年度)」⇒「生化学(2018年度)」⇒「分子生物学(2019年度)」だったので、2020年度は「生化学」の問題が中心だったら面白いと思っていたのですが、残念ながら「分子生物学」寄りの問題が多い印象でした(^-^;
この年の特徴は臨床医学に関する問題が多かった点です。マニアックな専門知識だけではなく「話題のニュースをちゃんと説明できるよね?」と言われているような気がします。
最近話題のニュースだと、新型コロナの治療薬として注目された大村智先生の「イベルメクチン」(2015年ノーベル医学生理学賞)をおさえておいた方がいいかもしれませんね。
残念ながらコロナ治療薬としてはあまり期待できないそうですが…
2020年度の派生問題
ゲルシフト法について簡単に説明せよ。
特定の塩基配列をもつ長さのわかったDNA断片を放射性標識し、細胞抽出液と混ぜたのちにポリアクリルアミドゲル電気泳動を行う。タンパクが結合したDNA断片はゆっくりと流れるため、オートラジオグラフィーによって分析することで、タンパク質が結合したDNA断片を特定することができる。
クロマチン免疫沈降法について簡単に説明せよ
細胞内で遺伝子調節タンパクと結合したDNAを抽出し、制限酵素あるいは超音波でDNAを切断する。目的の遺伝子調節タンパクに対する抗体を用いることでそのタンパクに結合したDNAを精製することができる。
抗寄生虫薬としてのイベルメクチンの作用機序を説明せよ。
無脊椎動物の神経細胞及び筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl−チャネルに結合し、Cl−に対する細胞膜の透過性を上昇させる。これによって、Cl−が細胞内に流入し神経細胞や筋細胞の過分極が生じる。寄生虫は麻痺を起こし死滅する
北里大学の大村先生は、イベルメクチンの開発により2015年のノーベル医学・生理学賞を受賞!
ブユに刺されることで感染する「オンコセルカ症」は失明を含む重大な目と皮膚の疾患を引き起こします。アフリカの流行地では60%以上の住民が目の疾患に悩まされており、4%が失明…といった報告もあります。
大村先生の発見によって開発されたイベルメクチンは、半年~1年に一度服用することで感染をコントロールでき、4000万人の感染が予防され、60万人の失明が防がれたといわれています。
過去問リンク
- 2023年度の過去問(生物化学)
- 2022年度の過去問(生物化学)
- 2021年度の過去問(生物化学)
- 2020年度の過去問(生物化学)
- 2019年度の過去問(生物化学)
- 2018年度の過去問(生物化学)
- 2017年度の過去問(生物化学)
- 2016年度の過去問(生物化学)
- 2015年度の過去問(生物化学)
- 2014年度の過去問(生物化学)
- 2013年度の過去問(生物化学)
Comment
講座はほとんどないですし、選択科目は大変ですよね。
自分は著作権法(確か、今は民法だけでしたよね?)で合格したのですが、保険で応用情報処理技術者も受けていました。
応用情報処理技術者の合格証書は免除に使うことなくインテリアと化しましたが(笑)
文系だったのですが、応用情報処理技術者は情報工学ばかりではなく、経営やマネージメントの問題も多いので、取っつきやすかったです。
また、応用情報処理技術者の知識は特許明細書を書くときにも活かせるので、もし特許事務所に転職されるのであれば、損じゃないと思いますよ。
ご専門的には電気ではなく化学になりそうですが、昨今はAI等の電気分野の依頼が増えていますので、興味があれば是非。
なるほど。「応用情報処理技術者」ですか!たしかに選択科目のオススメとして一番よく聞きますね(*’▽’) 合格しやすとということだけではなく、弁理士になった後も有益なんですね( ..)φメモメモ
ボクはバイオ系の大学院を修了しているので学科免除を狙えるのですが、「これぐらい合格できないとマズい」って気持もあって勉強を始めました。実際に取り組んでみると問題がとても面白いです(*^^*)
基礎を学び直す機会として活用させて頂いております。