二次試験(論文/選択科目)の対策!
特許庁のWebサイトで公開されている過去問の中から、理工IV(生物)の「生物化学」を解いてみました。
今回は、2022年度(令和4年)の問題です。
ボクなりの回答と、ボクが考えた派生問題を共有させていただきます。
おかしな箇所があれば、Comment欄にてご指摘ください。
2022年度の過去問
問1(計30点)
1 細胞内外シグナル伝達に関する以下の事項について、空欄の( ① )から( ⑩ )に適切な語を入れよ。ただし、同じ番号には同じ語が入る。また、空欄の( ア )から( オ )については、以下の語から適切なものを選択せよ。
ア[正、負] イ[促進、抑制] ウ[細胞内、細胞外] エ[促進、抑制] オ[増加、減少]
(1) 地球上の生物の多くは、昼と夜の 24 時間の周期に対応して生体活動を変化させる( ① )を有している。( ① )を支えるのは、細胞内シグナル伝達の( ア [正、負])のフィードバックであるが、用いられるシグナルは種によって異なる。例えば哺乳類やショウジョウバエでは遺伝子の発現制御が重要である。ショウジョウバエにおいて中心的な役割を果たす Period 遺伝子から( ② )される mRNA の量は、日中に蓄積して夜早くにピークを迎え、mRNA から( ③ )されるタンパク質の量は夜中にピークを迎える。このタンパク質は、Period 遺伝子自身の( ② )を( イ [促進、抑制])し、朝には PeriodmRNA 量が最小となる。このフィードバックの周期が約 24 時間であり、適切な( ① )が形成される。
① 体内時計
② 転写
③ 翻訳
ア 負
イ 抑制
Period遺伝子を発見した3人のアメリカ人は、2017年のノーベル医学生理学賞!
哺乳類やショウジョウバエとは異なり、シアノバクテリアの( ① )を支えるシグナルは KaiC タンパク質上の( ④ )化であり、KaiA、KaiB という 2 つのタンパク質が KaiC の( ④ )化の量を適切に制御する。実際に、試験管内で KaiA、KaiB、KaiCに( ⑤ )を加えて反応させるだけで、約 24 時間周期の KaiC の( ④ )化の変化が再現される。
④ リン酸化
⑤ ATP
シアノバクテリアに体内時計があるの!?
現在知られる中で、最も単純な概日リズムをもっている生物だそうです。
( ① )は、様々な外界の変化にかく乱され、容易に約 24 時間という周期が乱れるが、それを補正するのが( ⑥ )である。哺乳類では、脳の松果体から分泌される( ⑦ )というホルモンの量が、( ⑥ )の量の変化によって調節され、体全体の( ① )を補正する役割を果たす。
⑥ 光
⑦ メラトニン
「光」と「日光」で悩むな〜…
(2) Notch と Delta による細胞間シグナル伝達は、様々な組織の発生過程において隣り合う細胞が異なる形質を発現するために重要な役割を果たす。Notch-Delta 経路では Notch は( ⑧ )として、Delta はその( ⑨ )として働く。例えばショウジョウバエの神経細胞形成過程では、Delta は分化した神経細胞に発現して、隣接する未分化細胞に発現する Notch と結合する。Delta と結合した Notch は細胞膜付近で切断され、( ウ[細胞内、細胞外] )ドメインが( ⑩ )へと移行する。そして、この Notch の( ウ [細胞内、細胞外])ドメインは転写因子として働き、神経細胞に分化することを( エ [促進、抑制])し、結果として未分化細胞は表皮細胞となる。この機構が破綻したショウジョウバエ変異体では、神経細胞の数が異常に( オ[増加、減少] )して死に至る。この Notch-Delta 経路による細胞運命制御機構を側方抑制と呼ぶ。
⑧ 受容体
⑨ リガンド
⑩ 核内
ウ 細胞内
エ 抑制
オ 増加
Delta-Notch シグナル伝達経路は正のフィードバック
問2(計40点)
2 遺伝子の機能を解析するための実験について、以下の問いに答えよ。
(1) 細胞にプラスミド DNA を導入する方法を2つ挙げ、DNA を導入する原理とその特徴を、それぞれの方法について3行程度で説明せよ。
1 リン酸カルシウム共沈殿法
リン酸カルシウムとプラスミドDNAを混合すると、リン酸カルシウム-プラスミドDNA共沈殿物が生じ、この沈殿を培養細胞の上に乗せるとエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれる。特殊な装置や技術を必要とせず、操作も比較的簡単な化学的遺伝子導入法である。
2 エレクトロポテーション法
エレクトロポレーションは、電気パルスを用いて一時的に細胞膜に孔を形成し、その孔を介して、プラスミドを細胞内に通過させる。高価な機材を必要とするが、操作が簡単で遺伝子導入効率も高い、物理的トランスフェクション法である。
(2) CRISPR/Cas9 システムを用いて、内在遺伝子Aから発現するタンパク質AのC末端にGFP が融合したノックインマウスを作製したい。その方法について、以下の語を全て用いて5行程度で説明せよ。また、用いた語には下線を引け。なお、以下の語はそれぞれ複数回用いても良い。
[マウス受精卵、Cas9 タンパク質、ガイド RNA、ターゲッティングベクター、相同組換え]
まず遺伝子Aを含むDNA配列とDNA-RNA塩基対を形成するようにガイドRNAを調整する。次いで、遺伝子AのC末端にGFPを融合させたDNA配列を含むターゲッティングベクターを作成する。そして、Cas9タンパク質及び調整したガイドRNAとターゲティングベクターをマウス受精卵に導入し、別のマウス(仮親)の卵管に移植する。マウス受精卵のゲノムDNAは、ガイドRNAによって標的配列にCas9タンパク質が動員され、Cas9タンパク質のエンドヌクレアーゼ活性によって、二本鎖切断が作られる。すると、ターゲティングベクターを参照して相同組み換え修復が行われ、遺伝子AのC末端にGFPを結合させたDNA配列が組み込まれる。そして、仮親から産仔を取得し、目的領域の塩基配列の確認を行う。
ちなみに、ターゲティングベクターを入れないと、非相同組み換え修復によりノックアウトマウスを作製できる。
詳しくは、2017年度の過去問をご参照ください。
問3(計30点)
3 細胞内に存在する以下のオルガネラの一般的な機能を、それぞれ3行程度で説明せよ。
(1) ミトコンドリア
ミトコンドリアは細胞質で生成されたピルビン酸を、酸素を利用して、水と二酸化炭素に分解し、その過程で生じたエネルギーでATPを合成する。また、β酸化に関する酵素を有しているため、脂肪酸を分解し、そのエネルギーでATPを合成することもできる。
細胞内のエネルギー生成を担当
(2) 小胞体
小胞体には粗面小胞体と滑面小胞体の2種類があり、粗面小胞体は、リボソームで合成されたタンパク質を取り込み、濃縮および貯蔵をしている。滑面小胞体は、ステロイドの合成、脂質および糖の代謝に関与している。
タンパク質の成熟や貯蔵を担当
(3) ペルオキシソーム
ペルオキシソームは膜でできた小胞で、反応性が高く害のある過酸化水素を生成、分解する隔離された場となっている。その働きには脂肪酸の酸化やアミノ酸の代謝などさまざまなものがあり,活発な代謝を行っている。
問題を解き終えた感想
【2022年度の特徴】
- 穴埋め問題、説明問題ともに簡単な問題が多い
- 二者選択式問題が出題された
- 2017年と2019年のノーベル賞に関する問題が出題された
2022年度は、大当たり!!!
過去10年を振り返っても、1、2位を争うほど、2014年度と匹敵するほど、簡単な問題でした。
まず穴埋め問題では、題材とされた体内時計自体は難易度が高いものの、専門性の高い用語がほとんど出題されず、高校レベルで正解できる簡単なものが大半でした。
おまけに、2022年度特有の問題として「二者選択式の問題」が出題されましたが、1/2の確率で正解できる美味しい問題です(//∇//)
説明問題についても、細胞内小器官やトランスフェクションなど、基本的な知識を問う問題が多く、全体的に簡単な印象を受けました。
唯一、CRISPR/Cas9を応用したノックインマウスの作製法に関する問題の難易度が高めでしたが、2019年にノーベル賞を受賞した大注目の実験法のため、しっかりと対策していた受験生が多かったはず。
2022年度の派生問題
DNAを細胞に導入するためのトランスインフェクション技術は大きく3種類に分類され、細胞質又は核に直接導入する( ① )遺伝子導入法、( ② )遺伝子導入法、遺伝子組み換えウイルスを介して導入する( ③ )遺伝子導入法がある。
① 物理的
② 化学的
③ 生物学的
細胞内に存在する以下のオルガネラの一般的な機能を、それぞれ3行程度で説明せよ。
ゴルジ体
ゴルジ体は、分泌タンパク質や細胞外タンパク質の糖鎖修飾、リボソームタンパク質のプロセシングなど小胞体により生産された前駆体タンパク質の化学的修飾を行うとともに、各々のタンパク質を分類し、分泌顆粒、リソソームあるいは細胞膜にそれぞれ振り分ける働きをもっている。また、分泌顆粒そのものの生成も行い、細胞外へ分泌などを行う。
細胞内タンパクの輸送を担当
リソソーム
リソソームは、生体膜につつまれた構造体で内部に加水分解酵素を含んでおり、エンドサイトーシスやオートファジーによって膜内に取り込まれた生体高分子はここで加水分解される。分解された物体のうち有用なものは、細胞質に吸収され、不用物はエキソサイトーシスによって細胞外に廃棄されるか、残余小体として細胞内に留まる。
物質の分解を担当
過去問リンク
- 2023年度の過去問(生物化学)
- 2022年度の過去問(生物化学)
- 2021年度の過去問(生物化学)
- 2020年度の過去問(生物化学)
- 2019年度の過去問(生物化学)
- 2018年度の過去問(生物化学)
- 2017年度の過去問(生物化学)
- 2016年度の過去問(生物化学)
- 2015年度の過去問(生物化学)
- 2014年度の過去問(生物化学)
- 2013年度の過去問(生物化学)
Comment