前回の「医学生理学賞」に続いて、
今週は「化学賞」!
2026年のノーベル化学賞は、日本人を含む2名の研究者に授与されました。
- アンリ・カガン 名誉教授
(フランス・サクレ―大学) - 硤合 憲三 名誉教授
(日本・東京理科大学)
受賞理由は、100年以上にわたって謎に包まれていた「ホモキラリティー」という現象を解き明かしたこと。
生命の起源にも関与する重要な発見です!
できる限りわかりやすくまとめてみましたので、ぜひ読んでください(^^)/
受賞理由
発端
それは、今から遡ること約150年前、
かの有名な「ルイ・パスツール」による”ある発見”がきっかけとなります。
パスツールといえば、
現代科学においても致死率(ほぼ)100%、恐怖の感染症「狂犬病」のワクチンを開発したり、
白鳥の首フラスコを考案して、当時主流だった「自然発生説」(生物が物質から生じることがある)を否定したりと、
数々の偉業を成し遂げたフランスの細菌学者
そんな彼の成し遂げた偉業の一つに、2026年ノーベル化学賞のきっかけとなる「鏡像異性体」の発見というものがあります。
鏡像異性体とは?
この世の全ての物質は「原子」で構成されており、また、たいていの物質はいくつかの「原子」が集まった「分子」によって構成されています。

水は、「H」原子2つと「O」原子1つがくっついた分子によって構成されている。

鏡像異性体とは、
同じ原子で構成されているのに、その原子のくっつき方がまるで鏡に映したような立体構造をした異性体分子のことをいいます。

この二つの分子はどう回転させてもぴったりと重ね合わせることができない”異なる分子”で、それぞれ「右手型」と「左手型」と呼ばれます。
ホモキラリティー?
ここから本題に迫っていきます。
「ホモキラリティー」とは何か?
1948年のパスツールによる「鏡像異性体」発見と紐づいて、奇妙な事実が明らかになります。
それは、、
我々ヒトはもとより昆虫から植物に至るまで、生物を構成する有機物は、右手型・左手型のうち一方のタイプのみが使われていること。
人工的に合成した有機物は、右手型・左手方が半分ずつ生じるのに、なぜか地球上に存在する生物には一方のタイプしか存在しないのです!
「なぜ生物は一方のタイプのみを利用するに至ったのか?」
科学史に残る重要な未解決事項として、長年知られることになりました。
現代においては、
「ホモ」 = 「一方のタイプのみの」
「キラリティー」 = 「鏡像異性体」
の意味から、ホモキラリティーと呼ばれています。
受賞理由
以上のとおり、
100年以上前から謎に包まれていた「ホモキラリティー」という不思議な現象がどのように生じたのか?
この問いに対する一つの有力な仮説を打ち立てたことが今回の受賞理由となるようです。
今回発見されたこと
ノーベル賞に至った発見について、もう少し具体的な説明に入ります。
カガン氏の発見
カガン氏の功績は1986年、不斉触媒における「非線形効果」の発見。
不斉触媒(ふせいしょくばい)とは、鏡像異性体のうち一方を多く作るための合成(不斉合成)に用いられる触媒です。
その特性として、不斉触媒自体も鏡像異性体を有することが知られています。
従来、不斉触媒の右手型・左手型に偏りがあれば、それによって生成された分子の偏りも、不斉触媒の偏り応じたものになると考えられていました。
カガン氏が発見した「非線形効果」とは、
不斉触媒の偏りと、できあがる分子の偏りが「単純な比例関係(つまり線形)」にはならないというもの。
これによって、不斉触媒の右手型・左手型にほんの僅かな偏りがあれば、その後の世代交代により一方のタイプに統一され得ることが示され、
長らく不明とされていた「ホモキラリティー」を説明する有力な仮説として衝撃を与えたわけです。
硤合氏の発見
カガン氏の発見により、不斉触媒の右手型・左手型にわずかな偏りがあれば、一方に統一され得ることが示されたわけですが、
ホモキラリティーのような極端な偏りがなぜ生じたのかを説明するにはまだ不十分でした。
このパズルのピースを発見したのが硤合氏になります。
それは、「不斉自己触媒反応」の発見。
不斉触媒により生成された分子そのものが不斉触媒となり、自分と同じ型の分子が生まれることを手助けする反応です。
これにより、右手型・左手型の小さな偏りが、爆発的に大きくなり、一方の型に統一されるメカニズムが説明されました。
応用が期待できること
歴史的に見たらたしかにすごい発見かもしれないけど、これによってどんな応用ができるのか?
少しだけ調べてみました。
医薬品
まずは医薬品の有効性・安全性を高めることが期待できます。
右手型・左手型は使われている分子が同じで、かつソックリな構造をしていますが、人の体に及ぼす影響が異なる場合があることが知られています。
有名な例として、かつて日本で承認されていた睡眠薬「サリドマイド」は、一方の型の性質により催奇形性という副作用を引き起こし、「サリドマイド事件」として知れ渡ることになりました。
そこで、有効成分の右手型・左手型に分けて性質を考慮した医薬品を開発することで、より効果が高く副作用の小さいものを作ることが期待できるというわけです。
香料
続いて、シャンプーやコスメなどで使われる香料の開発に期待できます。
香りのもととなる分子についても、右手型と左手型の違いにより、全く異なる香りになることが知られています。

例えば、レモンの香りとスペアミントの香りは、右手型と左手型の違いらしい
このように右手型と左手型を考慮した香料を開発することで、余計な香りを取り除いたピンポイントの香りを作り出せるようになることが期待されています。
食品
最後に、食品への応用として甘味料
甘みを感じる分子である「甘味料」についても、右手型と左手型とでその性質に大きな違いがあることがわかってきました。
これを考慮した甘味料を開発することで、更なる味の向上に期待されています。
残された謎
本来1:1で存在するはずの鏡像異性体が、なぜか地球上の生物においては一方の型のみが使用されている「ホモキラリティー」
発見から100年以上に渡り謎に包まれていたその現象を如何にして作り出したのか、ついに有力な仮説が示されました。
しかし、、
なぜ生物は一方の型のみを利用するに至ったのかは依然として明らかになっていません。
それは意図したものなのか?
はたまた、単なる偶然の産物なのか?
その答えは、まだ誰も知りません。

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