手続き期間を徒過してしまった場合の救済規定といえば、「不責事由」と「故意でない(旧:正当な理由)」
(この手続きには、たしか救済規定があったはず…)
ここまで記憶していても、
- どちらの救済規定が設けられているか?
- 具体的な救済期間の詳細は?
一つ一つ完全に暗記していくことは大変ですよね(。-∀-)
短答試験の中で問われると不安な気持ちになってしまいます…
そこで、この苦手意識を解消するためにも、「不責事由」と「故意でない」に関連する条文をそれぞれピックアップ
すると、、、
シンプルな法則が見えてきました(+o+)!!!
今回の記事では、「不責事由」と「故意でない」のポイントについて紹介します♪
それぞれの概要
本題に入る前に!
まずは、それぞれの概要について、サラッと復習します!
“不責事由”とは
そもそも「不責事由」とは何か?
条文では「責めに帰することができない理由」とされています。
特許法第30条(発明の新規性の喪失の例外)
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
これだとイマイチピンときませんが、青本にてより具体的な解説がなされています。
〈その責めに帰することができない理由〉天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができない場合が含まれるのはいうまでもないこととして、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしても、なお請求期間を徒過せざるを得なかったような場合は、主観的な理由による場合であってもその責めに帰することができない場合に含まれよう。
引用:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 [第22版] 特許法第30条の字句の解釈
つまり「不責事由」とは、
- 天災地変により手続きを行うことができなかった場合
- その他、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしても、請求期間を徒過せざるを得なかった場合
が該当します。
“故意でない”とは
続きまして、「故意でない」の復習。
条文では「故意に~~しなかったと認められる場合は…」とされています。
特許法第48条の3(出願審査の請求)
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかったと認められる場合は、この限りでない。
青本の解説は以下の通り。
<故意に…しなかったと認められる場合>PLT一二条(1)の「Unintentional」に相当するものであり、手続をしなかったことが故意によるものでない場合に権利の回復を認めることとした。これは、「正当な理由があるとき」よりも広い概念を意味するものである。
引用:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 [第22版] 特許法第36条の2の字句の解釈
つまり”故意でない”とは、
- “不責事由”が日本独自の救済規定であるのに対して、PLT(特許法条約)の要請で設けられた規定であり、
- 手続きをしなかったことが故意によるものでない場合、救済の対象
となります。
PLT12条(1)の和文は以下の通り
第12条
引用:特許法条約(和文)
相当な注意を払ったこと又は故意でないことが官庁により認定された場合の権利の回復
(1)[申請]
締約国は、自国の官庁に対する手続上の行為のための期間を出願人又は権利者が遵守しなかった場合において、当該期間を遵守しなかったことがその直接の結果として出願又は特許に係る権利の喪失を引き起こしたときは、次のことを条件として、当該官庁が当該出願又は特許に係る当該出願人又は権利者の権利を回復する旨を定める。
(i)その旨の申請が規則に定める要件に従って当該官庁にされること。
(ii)規則に定める期間内に、(i)に規定する申請が提出され、かつ、当該自国の官庁に対する手続上の行為のための期間が適用された全ての要件が満たされること。
(iii)(i)に規定する申請において当該期間を遵守しなかった理由を明示すること。
(iv)状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず当該期間を遵守することができなかったものであること又は、当該締約国の選択により、その遅滞が故意でなかったことを、当めること。
PLTでは、「相当な注意を払ったこと」又は「故意ではないこと」を理由に、権利更新等の手続きができなかった場合は、権利回復の規定を定めるよう各国に要請しています。
そして日本では、「相当な注意を払ったこと(=正当な理由)」ではなく、それよりも広い概念を意味する「故意ではないこと(=故意でない)が採用されている
ということです。
★令和3年改正法★
ちなみに、、、
日本では「故意でない」が採用されているということですが、ほんのつい最近まで「正当な理由」が採用されていました。
改正されたのは、2021年5月21日に公布された「特許法等の一部を改正する法律(令和3年改正法)」
この法律は、2023年4月1日より施行されました(特許庁の発表はこちら)
時間に余裕のある方は「令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書」にて法改正の詳細を確認しましょう。
特許庁のWebサイトで読むことができますが、安くて、わかりやすくて、コンパクトな書籍の購入をオススメさせていただきます。
なお、正当な理由の解釈は、青本(第21版)にて以下の通り解説されていました。
〈正当な理由〉PLT一二条⑴の「DueCare」に相当するものであり、特許法一二一条(拒絶査定不服審判)等に規定された「その責めに帰することができない理由」より広い概念を意味するものである。例えば、出願人が病気で入院したことにより手続期間を徒過した場合や出願人の使用していた期間管理システムのプログラムに出願人が発見不可能な不備があったことにより手続期間を徒過した場合等が「正当な理由」があるときにあたる可能性が高いと言えよう。
引用:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 [第21版] 特許法第36条の2の字句の解釈
正当な理由とは、特許法条約(PLT)12条で規定された「DueCare(相当な注意)」に相当するものであり、不責事由よりも広い概念を意味するもの
例)以下の場合は「正当な理由」に該当する可能性が高い
- 病気での入院
- 期間管理システムの発見不可能な不備
ご参考まで。
“不責事由”のポイント
それでは本題に入ります。
まずは特許法から「不責事由」が規定された条文をピックアップ!
特許法からPick Up
条文 | 理由の消失から | 経過後 |
---|---|---|
30条4項 新規性喪失の例外 の証明書提出期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
43条8項 優先権証明書 の提出期間 | 14日以内※1 (在外者:2月以内) | 6月以内※1 |
44条7項 出願分割の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
46条5項 出願変更の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
46条-2 3項 実用新案に基づく 特許出願の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
67条–2 3項 2項延長の 出願期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 9月以内※2 |
67条–6 4項 処分を受けることが できないと見込まれる 際の手続きの期間 | 14日以内 (在外者:1月以内) | 2月以内 |
108条4項 第1年~第3年まで の特許料の納付期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
111条3項 特許料の返還請求期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
121条2項 拒絶査定不服審判 の請求期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
173条2項 再審請求の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
195条13項 手数料の返還期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
※2:正しくは「経過後~」ではなく「設定の登録に日~」
例外は、たったの2つ!
例外①:67条の2第3項(2項延長の出願期間)
理由がなくなった日から14日(在外者:2月)
or
期間経過後:9月以内
例外②:67条の6第4項(期限内に4項延長の処分を受けられない場合)
理由がなくなった日から14日(在外者:1月)
or
期間経過後:2月以内
特実意匠の比較
続きまして、特許法を中心に、実用新案・意匠・商標の「不責事由」を確認してみました。
特許 | 実新 | 意匠 | 商標 |
---|---|---|---|
30条4項 新規性喪失の 例外の証明書 提出期間 | 11条1項 準用 | 4条4項 同じ | 9条4項 同じ |
43条8項 優先権証明書 の提出期間 | 11条1項 準用 | 60条-10 2項 準用 | 13条1項 準用 |
44条7項 出願分割の期間 | 11条1項 準用 | ー | ー |
46条5項 出願変更の期間 | ー | ー | ー |
46条-2 3項 実用新案に 基づく特許 出願の期間 | ー | ー | ー |
― 明細書等の訂正 | 14条-2 6項 原則通り | ー | ー |
ー 個別指定手数料 の返還 | ー | 60条-22 3項 原則通り | ー |
67条-2 3項 2項延長の 出願期間 | ー | ー | ー |
67条-6 4項 処分を受けるこ とができないと 見込まれる際 の手続きの期間 | ー | ー | ー |
108条4項 第1年~第3年 までの特許料 の納付期間 | 32条4項 同じ | 43条4項 同じ | 41条4項 同じ |
登録料の 分割納付 | ー | ー | 41条-2 4項 同じ |
111条3項 特許料の 返還請求期間 | 34条3項 同じ | 45条 準用 | 42条3項 同じ |
121条2項 拒絶査定不服審 判の請求期間 | ー | 46条2項 同じ | 44条2項 同じ |
ー 審判請求の 取り下げ | 33条2項 原則通り | ー | ー |
173条2項 再審請求 の期間 | 45条1項 準用 | 53条1項 準用 | 61条1項 準用 |
195条13項 手数料の 返還期間 | ー | 67条9項 同じ | 76条9項 同じ |
ー 手数料の返還 | 54条-2 6項, 12項 原則通り | ー | ー |
ということで、
例外はありません!!!
見落としがあったらスミマセン…
“故意でない”のポイント
それでは「故意でない」のパートに入ります。
先ほどと同様に、特許法の条文からピックアップ!
特許法からPick Up
条文 | 手続きができる ようになってから | 経過後 |
---|---|---|
36条-2 6項 外国語書面の 翻訳文提出期間 | 2月以内※1 | 1年以内※1 |
41条1項1号 国内優先権の優先期間 | ー | 2月以内※2 |
43条–2 1項 パリ条約の例による 優先期間 | ー | 2月以内※3 |
48条-3 5項 審査請求期間 | 2月以内※4 | 1年以内※4 |
112条-2 1項 特許料の追納期間 | 2月以内※5 | 1年以内※5 |
184条-4 4項 国際特許出願の 翻訳文提出期間 | 2月以内※6 | 1年以内※6 |
184条-11 6項 国際特許出願の 特許管理人選任届 | 2月以内※7 | 1年以内※7 |
※2:特許法施行規則27条の4の2第1項で規定
※3:特許法施行規則27条の4の2第2項で規定
※4:特許法施行規則31条の2第4項で規定
※5:特許法施行規則69条の2第1項で規定
※6:特許法施行規則38条の2第2項で規定
※7:特許法施行規則38条の6の2第3項で規定
そして、、、
不責事由と同様、例外は2つだけ。
例外①:41条1項1号(パリ条約の優先期間)
「期間経過後:2月以内」
例外②:43条の2第1項(パリ条約の例による優先期間)
「期間経過後:2月以内」
特実意匠の比較
こちらも同様に、特許法を中心に、実用新案・意匠・商標の「故意でない」を確認してみました。
条文 | 実新 | 意匠 | 商標 |
---|---|---|---|
36条-2 6項 外国語書面の 翻訳文提出期間 | ー | ー | ー |
41条1項1号 国内優先権の 優先期間 | 8条1項 1号 同じ※1 | ー | ー |
43条-2 1項 パリ条約の例に よる優先期間 | 11条1項 準用 | 15条1項 準用 | ー |
48条-3 5項 審査請求期間 | ー | ー | ー |
ー 商標権の回復 | ー | ー | 21条1項 違う!※3 |
112条-2 1項 追納による回復 | 33条-2 1項 同じ※6 | 44条-2 1項 同じ※6 | 41条-3 1項 違う!※4 |
防護標章の更新登録 | ー | ー | 65条-3 3項 違う!※5 |
184条-4 4項 国際特許出願の 翻訳文提出期間 | 48条-4 4項 同じ※2 | ー | ー |
184条-11 6項 国際特許出願の 特許管理人選任届 | 48条-15 2項 準用 | ー | ー |
※2:実用新案法施行規則23条3項で規定
※3:商標法施行規則10条3項で規定
※4:商標法施行規則18条の2第1項で規定
※5:商標法施行規則2条9項で規定
※6:実用新案法 or 意匠法で規定
例外は5つあるので注意!!
例外①:実用新案法8条1項1号(パリ条約の優先期間)
「期間経過後:2月以内」
※ 特許法の準用
例外②:実用新案法11条1項&意匠法15条1項(パリ条約の例による優先期間)
「期間経過後:2月以内」
※ 特許法の準用
例外③:商法法21条1項(商標権の回復)
「手続きができるようになった日から2月以内」 or 「期間経過後、6月以内」
例外④:商標法41条の3第1項(後期分割登録料等の追納による商標権の回復)
「手続きができるようになった日から2月以内」 or 「期間経過後、6月以内」
例外⑤:商標法65条の3第3項(防護標章の更新登録)
「手続きができるようになった日から2月以内」 or 「期間経過後、6月以内」
実用新案法33条の2&意匠法44条の2(追納による回復)についは、施行規則ではなく、それぞれ実用新案法・意匠法に規定されている点にも注意
まとめ
【不責事由】
● 原則、救済期間は「理由がなくなった日から14日以内」 or 「期間経過後、6ヶ月以内」
● 特許法には例外が2つある
- 67条の2第3項(2項延長の出願期間)
- 67条の6第4項(期限内に4項延長の処分を受けられない場合)
● 実用新案法、意匠法、商標法には例外なし
【故意でない】
● 原則、救済期間は「手続きができるようになった日から2月以内」 or 「期間経過後、1年以内」
● 例外は5つ
- パリ条約の優先期間
- パリ条約の例による優先期間
- 商標権の回復
- 後期分割登録料追納による商標権の回復
- 防護標章の更新登録
以上!
Comment
67条の2 3項は
設定登録から9月ではないでしょうか?
実質的には、期限から6月になるようにされてると思いますが…
コメントを頂きましてありがとうございます。
この記事ではわかりやすさを重視するため、不責事由に関する条文をひとまとめにして「期間経過後・・・」としておりますが、ご指摘の通り67条の2第3項については「特許権の設定登録の日から・・・」が正しい文言となります。
勘違いが生じないように、注釈の追加を検討させていただきます^^
その他、気になる箇所がありましたらどんどんご指摘を頂けると嬉しいです。
Thanks, very helpful (sorry for the english!)
What about PCT application deadline for entering the Japan national phase?
“故意でない” (「手続きができるようになった日から2月以内」 +「期間経過後、1年以内」)
Thanks
Hi, Steve.
Due to the revision of the Japanese Patent law (JPL) on 2021, A Relief Provision concerning the deadline for Japanese translations was eased. (Before: Due Care, After: Unintentional)
In conclusion, even if the international patent application shall be deemed to have been withdrawn by JPL, Article 184-4, Paragraph (3), you can submit Japanese translations for two months from the date you become able to submit the Japanese translation due to Unintentional reasons (or for 1 year after the expiry of “special time limit for the submission of translations”, whichever comes earlier).
For more information, see the following documents:
– 特許法第181条の4第4項 (JPL, Article 184-4, Paragraph (4))
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
– 特許法施行規則第38条の2第2項(Enforcement Regulations of the JPL, Article 38-2, Paragraph (2))
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335M50000400010
Thank you.