本日は弁理士受験生向けの内容です。
「不責事由」と「正当な理由」
どちらも手続き期間を徒過してしまった場合の救済規定ではあるものの、それぞれの解釈や救済期間が異なります。
受験生ならだれもが知っている常識。
何とな~く理解しているつもりでしたが、過去問(短答試験)の中で問われると不安な気持ちに…

(不安…)
この苦手意識を解消するため、特許法の中から「不責事由」に関連する条文と「正当な理由」に関連する条文をそれぞれピックアップしてみました。
すると…
めちゃくちゃシンプルであることが明らかに…(+o+)!!!
「不責事由」と「正当な理由」のポイントについてまとめます。
それぞれの概要
まずはそれぞれの概要についてサラッと復習します。

いってみよう!
不責事由とは
受験生の間では「不責事由」と呼ばれていますが、法文上では「責めに帰することができない理由」といいます。
特許法第30条(発明の新規性の喪失の例外)
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から十四日(在外者にあつては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
不責事由の解釈は、青本(第21版)にて以下の通り解説されています。
〈その責めに帰することができない理由〉天災地変のような客観的な理由に基づいて手続をすることができない場合が含まれるのはいうまでもないこととして、通常の注意力を有する当事者が通常期待される注意を尽くしても、なお請求期間を徒過せざるを得なかったような場合は、主観的な理由による場合であってもその責めに帰することができない場合に含まれよう。
引用:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 [第21版] 特許法第121条の字句の解釈
つまり不責事由とは…
天災地変のようなどうしても手続きを行うことができなかった場合が該当するもの
例)大地震
正当な理由とは
特許法第48条の3(出願審査の請求)
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。
正当な理由の解釈は、青本(第21版)にて以下の通り解説されています。
〈正当な理由〉PLT一二条⑴の「DueCare」に相当するものであり、特許法一二一条(拒絶査定不服審判)等に規定された「その責めに帰することができない理由」より広い概念を意味するものである。例えば、出願人が病気で入院したことにより手続期間を徒過した場合や出願人の使用していた期間管理システムのプログラムに出願人が発見不可能な不備があったことにより手続期間を徒過した場合等が「正当な理由」があるときにあたる可能性が高いと言えよう。
引用:工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 [第21版] 特許法第36条の2の字句の解釈
つまり正当な理由とは…
特許法条約(PLT)12条で規定された「DueCare(相当な注意)」に相当するものであり、不責事由よりも広い概念を意味するもの
例)以下の場合は「正当な理由」に該当する可能性が高い
- 病気での入院
- 期間管理システムの発見不可能な不備
ちなみに、PLT12条(1)の和文は以下の通り
第12条
引用:特許法条約(和文)
相当な注意を払ったこと又は故意でないことが官庁により認定された場合の権利の回復
(1)[申請]
締約国は、自国の官庁に対する手続上の行為のための期間を出願人又は権利者が遵守しなかった場合において、当該期間を遵守しなかったことがその直接の結果として出願又は特許に係る権利の喪失を引き起こしたときは、次のことを条件として、当該官庁が当該出願又は特許に係る当該出願人又は権利者の権利を回復する旨を定める。
(i)その旨の申請が規則に定める要件に従って当該官庁にされること。
(ii)規則に定める期間内に、(i)に規定する申請が提出され、かつ、当該自国の官庁に対する手続上の行為のための期間が適用された全ての要件が満たされること。
(iii)(i)に規定する申請において当該期間を遵守しなかった理由を明示すること。
(iv)状況により必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず当該期間を遵守することができなかったものであること又は、当該締約国の選択により、その遅滞が故意でなかったことを、当めること。
PLTでは、「相当な注意を払ったこと」又は「故意ではないこと」を理由に、権利更新等の手続きができなかった場合は、権利回復の規定を定めるよう各国に要請しています。

日本では「相当な注意を払ったこと」を採用し、「正当な理由」の規定が設けられたということですね!
条文のピックアップ
それでは本題に入ります。
まずは特許法から「不責事由」が規定された条文をピックアップ!
不責事由の一覧
条文 | 理由の消失から | 経過後 |
---|---|---|
30条4項 新規性喪失の例外 の証明書提出期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
43条8項 優先権証明書 の提出期間 ※経産省令で定める期間 (規則27条の3の3第6項) | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
44条7項 出願分割の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
46条5項 出願変更の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
46条の2第3項 (実)に基づく 特許出願の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
67条の2第3項 2項延長の出願期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 9月以内 |
67条の6第4項 処分を受けることが できないと見込まれる 際の手続きの期間 | 14日以内 (在外者:1月以内) | 2月以内 |
108条4項 第1年~第3年まで の特許料の納付期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
111条3項 特許料の返還請求期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
121条2項 拒絶査定不服審判 の請求期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
173条2項 再審請求の期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
195条13項 手数料の返還期間 | 14日以内 (在外者:2月以内) | 6月以内 |
おぉー!!なんてシンプルΣ(゚Д゚) !
例外は、たったの2つ。
例外①:67条の2第3項(2項延長の出願期間)
「理由がなくなった日から14日(在外者:2月)」 or 「期間経過後:9月以内」
例外②:67条の2第3項(処分を受けることができないと見込まれる際の手続きの期間)
「理由がなくなった日から14日(在外者:1月)」 or 「期間経過後:2月以内」

ただし、43条8項(優先権証明書の提出期間)については、特許法上「経済産業省令で定める期間」と規定されている点に注意。
次に、特許法から「不責事由」が規定された条文をピックアップ!
正当な理由の一覧
条文 | 理由の消失から | 経過後 |
---|---|---|
36条の2第6項 外国語書面の 翻訳文提出期間 ※経産省令で定める期間 (規則25条の7第5項) | 2月以内 | 1年以内 |
41条1項1号 国内優先権の優先期間 ※経産省令で定める期間 (規則27条の4第の2第1項) | ー | 2月以内 |
43条の2第1項 パリ条約の例による 優先期間 ※経産省令で定める期間 (規則第27条の4の2第2項) | ー | 2月以内 |
48条の3第5項 審査請求期間 ※経産省令で定める期間 (規則第31条の2第4項) | 2月以内 | 1年以内 |
112条の2第1項 特許料の追納期間 ※経産省令で定める期間 (規則第69条の2第1項) | 2月 | 1年以内 |
184条の4第4項 国際特許出願の 翻訳文提出期間 ※経産省令で定める期間 (規則第38条の2第2項) | 2月 | 1年以内 |
184条の11第6項 国際特許出願の 特許管理人選任届 ※経産省令で定める期間 (規則第38条の6の2第3項) | 2月 | 1年以内 |
おぉー!!やっぱりシンプルΣ(゚Д゚)!
やっぱり、例外は2つだけ。
例外①:41条1項1号(パリ条約の優先期間)
「期間経過後:2月以内」
例外②:43条の2第1項(パリ条約の例による優先期間)
「期間経過後:2月以内」
「正当な理由」に関する法改正
2021年5月21日、「特許法等の一部を改正する法律(通称令和3年改正法)」が公布されました。
これにより、「正当な理由」の救済期間が変わります。
48条の3(出願審査の請求)
5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。
引用:令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書
「それぞれの概要(正当な理由とは)」のパートでもお話ししましたが…
もともと「正当な理由」の救済が導入された経緯として、2000年に特許法条約(PLT)が採択され「相当な注意を払ったこと」又は「故意ではないこと」を理由に、権利更新等の手続きができなかった場合は、権利回復の規定を定めるよう各国に要請されました。
これを受けて日本は「相当な注意を払ったこと」を採用し、「正当な理由」の救済規定を導入しました。
今回、「相当な注意を払ったこと」から「故意ではないこと」へと変更するため、「正当な理由」の救済期間が変わります。

救済期間の要件が緩和されたということですね!
ただし、注意点があります!
令和4年度の試験については、この改正を考慮する必要がないということ!
詳細については特許庁のWebサイト「令和3年法律改正(令和3年法律第42号)解説書」をご参照ください!
ちなみに、特許庁で公開されているものと同じ内容のブックタイプが販売されています。
安い、読みやすい、持ち運び便利!
三拍子そろった解説書なので、弁理士受験生はこちらの本を購入することをオススメします。

ボクも毎回購入しています♪
まとめ
【不責事由】
● 原則、救済期間は「理由がなくなった日から14日以内」 or 「期間経過後:6ヶ月以内」
● 例外は2つ(67条の2第3項、67条の2第3項)
【正当な理由】
● 原則、救済期間は「理由がなくなった日から2月以内」 or 「期間経過後:1年以内」
● 特許法上は、例外なく「経済産業省令で定める期間」と規定
● 例外は2つ(41条1項1号、43条の2第1項)
【法改正】
● 正当な理由の救済期間が変更になるが、令和4年度の試験は考慮する必要がない。
以上!
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